1、    はじめに

予防・健康学の講義において、「うつ病」、「アスベス」、「ストレス」に関するビデオを見、その中から、現代社会においては深刻な問題となっており、誰もが必ず関わる「ストレス」に注目してみた。

 

2、          選んだキーワード

「ストレス」 ・ 「ライフスタイル」

 

3、    選んだ論文の内容の概略

「職種に関する精神医学的問題:IT産業」   谷 将之 ・ 上島 国利

精神科有床総合病院精神科を受診したIT産業就労者について、その診断と臨床症状、ストレス因子、ライフイベントを後方視的に調査し、IT産業以外の就労者との比較を行った。受診時のICD−10診断は、 IT産業群ではF3系列が50例(54.3%)と最も多く認められ、他業種群に比べ有意に多かったが、他の系列で両群間に有意差は認められなかった。初診時に認められた精神状態では両群とも抑うつ気分が高率に認められ、意欲低下・集中力低下がIT産業群に有意に認められた。一方、易怒性はIT産業群で有意に少なかった。身体症状はIT産業群で動悸を訴える頻度が有意に少なかったが、他の症状で両群間に有意差は認められなかった。今回の調査では精神疾患に罹患したIT産業従事者のストレス因子として、仕事内容によるストレスが他のストレスと比べより大きな比重を持つことが明らかになった。また、長時間の勤務や慢性的に多忙な職場環境はIT産業就労者やコンピュータ技術者に特異的なものではないが、今回の調査ではストレス因子としてそれらが最も多く認められ、他業種と比較しても有意に多かった。システムエンジニアをはじめとするコンピュータ技術者の業務の特殊性として、@プロジェクトの多くは納期がユーザーからあらかじめ決められており、その納期に合わせてスケジュールを組むため、余裕のある作業スケジュールが組めないこと、A完成したシステムを実際に試すまではシステムに不具合があるかどうか分かりにくく、納期直前になってシステムトラブルが判明し急激に業務が増えることがあること、B頭脳労働であるため他者の援助を受けにくいこと、C技術の進歩が早く、常に高い仕事水準が要求されること、が挙げられるが、このような業務の特殊性が上述したようなストレス因子を引き起こしている可能性は十分に考えられる。また、今回の我々の調査では意欲低下・集中力低下が精神症状として多く認められたが、これはIT産業就労者でこのような症状が出現しやすいというよりも、上記のような業務の特殊性(特にBとC)があるためわずかな意欲低下や集中力低下でも強い自覚症状として経験され、それが診察所見や評価尺度に反映しているためと考えられた。今回の調査では、仕事の対人関係の問題がストレス因子となっているのはIT産業群の19.6%に認められたが、その多くがチーム内でプロジェクトリーダーに抜擢されたことなどによる対人関係の複雑化や、配置転換に伴う新しい対人関係によって出現していた。これらのストレス因子は他業種でも多くみられ、今回の調査でも他業種群と比較して有意差は得られなかった。IT産業就労者の多くを占めるコンピュータ技術者は専門性が高く、高度な仕事水準を要求され、かつ他者の援助が受けにくい職場環境にあるが、同時にそのような仕事環境で働くことにプライドを持つことで高い生産性を保っている。そのため、復職の際に主治医や産業医の判断で時間制限業務を開始しても以前と同様の業務に復帰できることは少なく、それが新たなストレス因子となって再び病状の悪化をきたす例が今回の調査で少なからずみられた。今回は十分な検討ができきるだけの症例は得られなかったが、精神疾患のため休職したIT産業就労者、またはコンピュータ技術者における復職の困難さの背景には職種に特異的な問題が存在する可能性があり、今後検討すべき課題であると思われた。IT産業就労者、特にコンピュータ作業者の精神疾患を治療する際にはこのような職場環境を十分に考慮した上で、産業医との連携を密に取り、適切な治療計画を立てて行うことが重要であると考えられた。

 

「精神に関わる労災認定の考え方と実際上の問題点」  原田 憲一

近年の精神医学の疾患分類の流れは、心因、内因、外因の枠組みを取り払った。その動向にしたがって、労災対象となる職業病の認定にあたっても初めから一定の疾患を除外することを止めた。そしてWHOICD-10の「F、精神および行動の障害」に挙げられているすべてを検討対象とすることにした。この中には子供の精神障害や発達障害など、およそ職業とは関係ない疾患群もあるのはいうまでもない。また、ICDは10数年〜20年で改訂される。労災の場合、診断することに稀ならず大きな困難がある。それは検討対象が生前医療にかからず自殺してしまった場合などである。情報が少ない場合、病気を診断するのは不可能である。

私たちは成因論としてストレス−脆弱性仮説を取り上げた。精神疾患に限らず人間のすべての病気が、外部要因(ストレス)と個体側要因(脆弱性)との関係性によって発症する。発病時点での脆弱性(個体要因)は遺伝的要因と生後これまでの外部要因(物質的および心理的環境)によって形成されたものである。そこに新たに何らかのストレス(外部要因)が働いて、その人は病的状態に陥る。医学と法曹との間に物事の起こり方について考え方のズレがある。これが労災認定問題でも、行政認定(精神科専門医の意見を取り入れて行われる)と裁判判決とがしばしば食い違うひとつの理由である。たとえ誘因であっても、それが業務上の問題と認められるなら、労災とすべし、という意見も出ている。そして、業務上外を判断するときに「相対的有力原因」あるいは「相当因果関係」という語で論議されることがある。この語をどう解釈するかで判定が異なってくる。病気の成因としてストレスの評価と個体側要因の評価が求められる。その評価のために参考とするべきストレス評価表がある。また、業務上の身体的過労では心的ストレスが共存しているのが常である。しかも過労はその人のストレス対処能力を低下させるであろう。ストレスの評価については「客観基準」に立ち「平均人基準」をとる。補償を伴う問題の場合はやはり客観基準によるのが不公平を小さくすることにつながるだろう。しかし、ストレスの評価判断は評価者によって異なる。そして、労災認定において、業務外つまりプライベートな生活上のストレス情報は非常に乏しいのが普通である。自殺のときその人が病的な不安、うつ状態にあり、その不安、うつ状態が業務上の病気と認定されたのなら、自殺もその症状の一つとして労災対象となる。私見を挙げておくと、成因の判定に「寄与割合」の考えを取り入れ、割合補償、部分認定を検討すべきである。イギリスのように労災問題も社会保障の一環に位置づけるべきではないか。原因が何であれ本人ないし遺族に生じた生活上の困難を公平に社会が援助するのがよい。クレームを持ち出せない社会が悪いことはわかるが、「非難文化」に向かって社会が傾いていくことにも筆者は索漠たる思いを懐く。

 

4、    選んだ論文とビデオの内容から自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察

「ストレス」という用語を医学用語として最初に用いたのはキャノン(1871〜1945)という生理学者ですが、その後、セリエ(1907〜1982)という医学者がその性質を定義し、汎適応症候群と名付けたストレス学説を提唱したのが始まりです。セリエは「ストレス」を次のように定義しました。どんなときでも、生物の身体に何らかの反応を起こさせるものが「ストレッサー(ストレス刺激)」である。それにより生体に生じる反応が「ストレス(ストレス反応)」である。

 「ストレス」という用語は元来、生理学的用語であり、これは現在も変わりません。しかし、その「刺激」と「反応」のありさまが人間の社会的、日常生活的な心理的葛藤の様子と類似していることから、この生理学的用語を基に「心理社会的ストレッサー」、「心理社会的ストレス」という用語が用いられるようになり、今日、生理学から心理学、社会学まで幅広い意味を持つようになりました。

その後、心理社会的ストレスの性状や強さが、免疫反応などを含む実際の生物学的状態に影響を与えることが示唆されるにいたって、生物学的・生理学的な意味での「ストレス」と、心理社会的な意味での「ストレス」はますます分かち難くなっています。ストレッサーには、その外的刺激の種類から物理的ストレッサー(寒冷、騒音、放射線など)、化学的ストレッサー(酸素、薬物など)、生物的ストレッサー(炎症、感染)、心理的ストレッサー(怒り、不安など)に分類される。ストレッサーが作用した際、生体は刺激の種類に応じた特異的反応と、刺激の種類とは無関係な一連の非特異的生体反応(ストレス反応)を引き起こす。ストレス反応とはホメオスタシス(恒常性)によって一定に保たれている生体の諸バランスが崩れた状態(ストレス状態)から回復する際に生じる反応をいいます。

ライフスタイルにおけるストレッサーは、心理的ストレッサーにあたります。IT産業就労者は、他業種に比べ仕事内容によるストレスが指摘されるが、高い水準が求められ、他者の援助が受けにくいという同じ条件下の他業種と同じ結果が認められる。よって、IT産業就労者に限っての症例とは言い難い。このような特殊な職場環境にある就労者を治療するには、長時間の計画的な訓練が必要となるであろう。しかし、技術の進歩が早く、高い水準を求められる環境では、長時間掛かる治療は難しい。そのため、自己管理および会社や周囲のものによる協力により、早期発見、治療が最も現実的治療であろう。

 また、精神疾患の診断は、患者にとって大きな問題である。医師の判断により労働災害の補償の有無が決定されるからである。よって、医師は慎重に診断せねばならない。これには、医師と法律とが大きく関わりあい、治療面よりも原因を追求し、それが業務上か否かが主体となります。基本的に医師は患者の治療、研究が基本ですが、社会的な要求がなされる場合もあります。この場合、医師は医療者というよりも法律家に近いといえる。現在のICD-10を中心に捉えた診断では、範囲の拡大による非効率化があるのは明らかである。また、平均人基準による診断では、公平がなされるかもしれないが、個体側要因が殺されてしまう。人間を対象とする上で、個人差を消して診断することが適正とはいえないだろう。

5、          まとめ

職場環境におけるストレスからなる精神疾患の診断は、様々な情報とそれを裏付ける根拠が重要である。また、職場環境において、それぞれ治療計画を変えて対応する必要がある。